大映撮影所のシロ
1970年代の、京都大映撮影所にシロという野良犬が住み着いていた。その当時、どこの撮影所でも、だれとはなくエサをやるので、何匹もの犬や猫たちが住み着いていたが、シロもそんななかの一匹だった。
あるときたまたまロケバスに乗り込んで同行し、ロケ弁当の食べ残しをもらって味をしめたシロは、ロケバスの音を聞きつけると、どこからともなく走って来て、どんな組のロケにもついて行くようになった。やがてスタッフや大部屋俳優達にとってそれは、出勤前の当たり前の風景になっていた。そのうち出発時間になってもシロが来ないと待つようにもなっていた。
ある日なかなかバスが出ないので東京から来ていた女優さんが「どなたか遅れていらっしゃるの?」と聞くと、スタッフの一人が「はあシローさんがまだ」と答えた。するとスタッフの一人が、「シローさんやったらさっき、あっちの路地でスケベしたはりましたで」と言った。女優さんはびっくりした様子できょとんとした顔になった。
朝から晩まで冗談ばかり言っているスタッフ達のことだから、シロのスケベ話が本当かウソかは定かではないが、そのスタッフがあっちと言った方角からシロが、こちらへ向かって必死の形相で猛突進してきたとき、バスの中は大笑いになった。
ロケの鬼だったシロのこと、カメラの前を横切ったり、遠くで昼寝をしていたり、仲良しのスタッフや役者に寄って来たりするので、その当時のフィルムには下手な大部屋俳優よりもよく出演していた。ロケ弁当が余った時など、まるまる一つをもらったりして一端の俳優扱いであった。
ある日、大部屋俳優の名前がずらりと掛けてある木札の列の最後尾に、新品の一枚がうやうやしく追加されていた。 そこには墨で黒々と 「シロ」とかかれてあった。
その日の撮影所は、いつもよりみんな、ニコニコしていたように見えた。 |
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